前回は5月の誕生石「エメラルド」についてご紹介しました。
神秘の緑色~5月の誕生石エメラルドと翡翠について -前編-
今回は5月のもう一つの誕生石、翡翠(ジェイド)について引き続きご紹介します。
翡翠は大変奥が深く東洋の宝石と呼ばれる日本最古の宝石です。
東洋人の陶器のような肌に最も似合うとされ、中国では4000年も前から翡翠を「玉」と呼び大切にされてきました。
東洋でなじみ深い翡翠
中国や台湾に行くと、翡翠のバングルやお守りを身につけている人を頻繁に目にします。
高額な翡翠を投資目的で持つ富裕層も多くいるとも言われています。
それもそのはず、翡翠は「皇帝の石」、「神々の石」と考えられ黄金よりも貴重でした。
王族の記章が翡翠であったのに対し、黄金の記章を付けられるのは、官吏のなかでも第三、第四階級の者だったと言われています。
一夫多妻の時代には、「第一夫人には翡翠を、第二夫人にはダイヤモンドを」といった言葉の如く、中国では人のあるべき心構えとして 『五徳』 (仁・義・礼・智・信)を高めるとされ、ダイヤモンドの輝きよりも翡翠の潤んだ照りを称え大切にされてきたことがわかります。
中南米(マヤ・アステカ・インカ文明)やメソアメリカでも歴史上ダイヤモンドや金よりも価値が高く扱われ、武器・装飾品・まじないの道具としても使われていたそうです。
また、昨年ラグビーワールドカップでも注目を浴びた “ハカ” で有名なニュージーランドのマオリ族では翡翠をグリーンストーンやマオリ語でポウナム(Pounamu)と呼び、タトゥー同様に彫刻された装飾デザインにひとつひとつ想いを込めたそうです。現在でもニュージーランドのお土産屋さんに行くと見かけるので、旅行で行かれた際にはぜひ手に取ってみくださいね。
▲JR糸魚川駅前 奴奈川姫像
日本においても歴史は古く、最古の歴史書である「古事記」に翡翠について記されており、縄文時代の遺跡からも翡翠の勾玉が見つかっています。そのころの翡翠は 「調和」「豊穣」「忍耐」「再生」「命」 を意味する宝石として、祭祀・呪術などの儀式や装身具にも使われていたそうです。
日本でも本翡翠の産地として新潟県の糸魚川や長野県の姫川 (翡翠海岸) が有名です。
また、2016年9月には日本の国石として認定されています。
翡翠について
翡翠には硬玉(ジェダイト)と軟玉(ネフライト)があります。
硬玉(ジェダイト)は、軟玉(ネフライト)と区別するため本翡翠とも呼ばれています。
緑色の他に、ラベンダー色、白、グレイや茶などと色みが多く、中でも最上級の緑色の本翡翠を
「琅玕 (ろうかん)」と呼び、とろりとした透明感のある光沢を持ち、極上の艶を感じることができます。
「琅玕 (ろうかん)」は、ビルマで産出され希少価値が高く「宝石の皇帝」とも呼ばれているほどです。
軟玉(ネフライト)は、主に中国で産出されることから、「中国翡翠」などとも呼ばれています。
加工しやすい事から、装飾品以外に置物や調度品などに用いられます。
産出量が多く比較的安価で取引されています。
▲左:ジェダイト(硬石) 右:ネフライト(軟石)
硬玉(ジェダイト)と軟玉(ネフライト)は、鉱物学的にも化学的にも異なる石ですが、宝石とみなされるのは硬玉(ジェダイト)だけです。
また、判別が難しく偽物も多く出回り、品質の善し悪しが分かりにくいことから、翡翠を扱う質屋さんは少ないと言われています。
翡翠というと中国の宝石という印象が強いですが、実は中国では翡翠(硬玉)は採れません。
翡翠の主な産地は日本、ミャンマーやロシア、グアテマラなど世界でもごく限られた地域でしか採れず、
中でも宝石質の翡翠はミャンマー北部のカチン州パカンを中心とした極々狭い地域でしか採れず、現在のジュエリー市場で一、二を争う産地と言われています。
人の心を虜にする再生の石!?
古代中国では不老不死を目的とする神仙思想が発達していたこともあり、緑は「豊穣、生命、再生」
をもたらす神秘的な力や生命に関わる力があるとみなされたことからも宝石言葉である「健康と繁栄・
福徳・調和」などにつながりを感じます。
不思議なのは遠く離れた各地の王族の墓などから、高貴な人物の遺体を翡翠で覆うという共通の埋葬方法が発見されていて、異なる文化圏でも翡翠の「不老不死や生命の再生」などのパワーが信じられていたことがうかがえます。
余談ですが、健康や長寿の護符と言われ徳を象徴するこの翡翠の色艶に、どこかミステリアスな魅力を感じてしまうのは私だけでしょうか?
ダイヤやルビーが好きだった友人は、ある日翡翠にのめりこみ、全財産を翡翠につぎ込むほど心を持っていかれてしまいました。反する魔物にも似た艶やかさに翻弄されてしまうのは事実のようです。
神秘の自然色~5月の誕生石「エメラルドと翡翠」
エメラルドの石言葉は、「幸運・幸福・愛・安定・希望」。
「愛の石」とも呼ばれており、結婚55年目のエメラルド婚に贈られる宝石です。
一方、翡翠の石言葉は、「健康と繁栄・福徳・調和」。
結婚35年の翡翠婚に贈られる宝石です。
エメラルドも翡翠もジュエリーリフォームのご相談が多い石です。
リングやペンダントトップ、翡翠では帯留めなどの状態もよくお見かけします。
もしも、この神秘的な石を眠らせたままならば、ぜひ眠りから解き放っては如何でしょう?
成人した大人はもちろん、年を重ね紆余曲跡を歩んできた女性が身につけてこそ、そのパワーに拍車が
かかり、華やかに輝くのではないでしょうか。
植物や森林など「自然」を感じさせる緑色は、居心地が良くリラックスでき、生活に溶け込んだ色ですが、相反するミステリアスでもあり神秘的な美しさを是非手に取って感じてみてください。
ライター:綺羅子